坂村 健 氏(審査員長)
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長私たちが初めて物流オープンデータのコンテストを開催してから7年が経ちますが、その間にも物流業界をめぐる情勢は日々変化しています。コロナ禍におけるEC業界の活況に伴う物流需要の急増、一方では「2024年問題」として知られるような働き方改革に伴う輸送能力の不足など、社会の根幹を支える産業ゆえの様々な課題を抱えています。このような課題の解決に向け、物流業界のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を求める声も、多く耳にするようになりました。
今回の「大和ハウス工業 スマートロジスティクス オープンデータチャレンジ」は、ロジスティードの安全運行管理ソリューション「SSCV-Safety」から得られる実在の物流データをもとに、スマートで安全な物流のためのデジタル技術を用いた提案を、広く開発者の皆様から募るというものです。比較的一般には馴染みの薄いデータにも関わらず、多様なアプリケーションの提案がありました。
今回最優秀賞として選ばれた「SSCVアシスト for Manager」は、生成AIを利用して、ドライバーへ気遣いのあるフィードバックを効率的に行うというコンセプトのものです。この作品では、今まで人間の感性に頼らざるを得なかった「気遣い」を生成AIに一部委ねることで、業界のDXを実現するというアイデアが根幹にあると言えます。ChatGPTをはじめとした生成AIの活用方法は、いままさに世界中で模索されているものですが、このような新技術の特性を、物流の課題解決に適用する方法を、具体的に提示した点が、高く評価されました。
その他には、ヒヤリハットの近くを通過するときに警告する「ヒヤリハットアラート」、ヒヤリハットが起こりやすい場所を可視化する「ぶじしるべ」、またデータを具体的に分析したレポートを提示した「疲労度合いの分析と見える化」が、それぞれ優秀賞に選ばれました。
今回のコンテストでは、交通事故統計情報をオープンデータ化している警察庁ともオープンデータパートナーとして連携し、結果的に双方のデータを活用した作品が多く寄せられました。データをオープンにすることで、様々な人々と連携し新たな知恵を生み出すということが、オープンデータ・チャレンジの本質です。今回のチャレンジが、将来の物流業界のDXの一助になることを祈ります。
浦川 竜哉 氏
大和ハウス工業株式会社 常務執行役員大和ハウス工業スマートロジスティクスオープンデータチャレンジに皆様からご応募頂き誠にありがとうございました。
今回のスマートロジスティクスオープンデータチャレンジはコロナ禍を挟み4年ぶりの開催となりました。ロジスティード株式会社様にデータ提供をご協力頂き、SSCV-Safetyから得られるトラックドライバーのバイタルデータ、ヒヤリハットに関するデータ・映像、トラック位置情報などを活用した作品を募集し、2024年問題も迫る中、物流業界の課題解決の一助となるような作品を期待しておりました。
多数の皆様の御参加の中から大変悩んだ末、結果は最優秀賞に1点、優秀賞3点、特別賞に1点となりました。私は3つの観点から審査をさせて頂きました。第1にドライバーや物流会社にとっての有益性(実際に利用できるか)、第2に作品の課題解決のための着目点、第3にデータの活用度といった点です。
最優秀賞を取られたSSCVアシストfor Managerは着眼点が面白く、運行管理者個人のコミュニケーション能力等で濃淡があるドライバーへの振り返り業務をアシストしてくれるアイデアに物流現場の利便性が上がる今までなかった(思いつかなかった)サービスだと感じました。
優秀賞、特別賞の作品においてはデータを上手く活用したリアルタイム性やインターフェイスの完成度など甲乙付け難い作品でありましたが、より物流現場の課題解決に役立つ視点や物流事業者が使ってみたいと思わせるアプリケーションを今後は期待したいと思います。
最後に、今回の入賞者の皆さん、本当におめでとうございます。そして参加頂いた多数の皆様、お忙しい中ありがとうございました。次回も多数の皆様からアイデアを頂ければ、そして実用化に繋がる事ができればと思います。今後共、物流の進化の為に皆様の英知をお貸し下さい。
そしてこれからも大和ハウスグループへの御指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
佐藤 清輝 氏
ロジスティード株式会社 専務執行役員 営業統括本部長「SSCV-Safety」は、事故ゼロ社会の実現をめざす安全運行管理ソリューションです。
ドライバーの生体情報や車両の挙動をセンシングし、AIによる分析を行い、リアルタイムでドライバーおよび運行管理者に警告を発信し、事故を未然に防ぐことを目的としております。
すでにロジスティードグループの全車両にも導入済で、グループ以外の輸送会社にも広くご利用いただいており、最近ではバス会社や地方公共団体でのトライアル利用も進んでおります。
こうした実利用から得た大量の生体情報や車両挙動のデータは、非常に貴重なものです。特に運転前後及び運行中の生体情報と車両の危険な挙動を関連付けた大規模なデータは、世界中で先例がないものと言われております。
このため、私たちはこのオープンデータチャレンジの理念に共感し、自社のデータを提供させていただきました。
応募いただきました作品は、それぞれに社会課題の解決に寄与できるようなアイデアが含まれており、大変感銘を受けました。
中でも最優秀賞に輝いた「SSCVアシスト for Manager」は、普段から輸送の現場で行われている「点呼」に着目いただき、そこに新しい技術を投入するという内容で、特に具体性と独創性に優れた作品であったように思います。
点呼の際に運行管理者がドライバーに声掛けする際のサポートとして、運転中の生体情報や車両の危険な挙動にもとづき生成AIが最適なアドバイスを提供するもので、実際のビジネス展開に大いに寄与するものと考えております。
当社はSSCVなどDXの仕組みを通じて、物流業界が直面する社会課題の解決と社会インフラとしての物流の発展に貢献してまいります。
今回入賞された皆様におかれましても、データ分析の知見と発想力を活かし、くらしを豊かにするサービス開発に一層ご尽力いただけますことを期待しております。
秋葉 淳一 氏
株式会社フレームワークス 会長多くの登録を頂きまして、ありがとうございました。
また難しい課題に対して果敢にチャレンジして応募を頂きました。どうもありがとうございました。
審査員にて議論を行い、最優秀、優秀の作品を選定しました。作品個々の議論の内容は控えますが、「もう少しこうだったら」「業務の利用シーンから考えると」など活発に議論したことはお伝えしておきます。
みなさんは「物流のデータ」と聞くとどのようなデータが頭に浮かぶでしょうか?
在庫データ、入出庫データ、積載率、トラック位置情報、販売データなどでしょうか?
今回のスマートロジスティクスオープンデータチャレンジでは、ロジスティード様のご協力により、トラックの位置情報・加速度だけではなく、トラックドライバーのバイタルデータやドライブレコーダの動画もオープンにしました。
特にトラックドライバーのバイタルデータには乗車前後だけではなく、運転中のバイタルデータから分析した疲労度と注意レベルが含まれていました。
漫然事故防止から始まったトラックドライバーのバイタルデータの取得は、他の営業車両のドライバーから一般のドライバー、そしてドライバーに限らず「人」の健康状態が把握できる可能性があるデータです。今回のチャレンジは終わりましたが、このデータの活用は引き続きみなさんにも考えて頂けると幸いです。
どうもありがとうございました!
加藤 篤史 氏
羽田みらい開発株式会社 SPC統括責任者まず、今回このような取組みに審査員としてお声掛け頂きましたこと、非常に光栄でありますと共に感謝致しております。
物流業界の取組みは常に先進的であり、先端技術を積極的に事業に導入し活用している実態を今回のコンテストであらためて実感致しました。
今後の利活用が期待される様々なオープンデータをいかに利活用してゆこうという今回の試みは、我々が開発・運営を行う羽田イノベーションシティを含め、全国各地で展開されているスマートシティやスーパーシティの取組みと合致しておるものであり、不動産開発事業者としても非常に参考となる事例でありました。
一方で、開発期間の時間的な制約の影響もあるのでしょうが、個々の事例における表面的なパフォーマンスは、既存のシステムとの類似性が感じられるものがいくつかみられたように思いました。
取得した膨大なデータをどのように活用することが、効率的な施設・事業運営(省エネ、労働力削減)に寄与するものとなるのか。また、継続的に実施してゆくために如何にマネタイズができるか。という点は、データ利活用を検討する関係各社や事業者にとって共通の悩みであると思います。
今回表彰されました皆様方の作品は、今後の更なるブラッシュアップや開発で、効率化・マネタイズを期待させる素晴らしいものであると感じております。
今般のチャレンジに、ご参加・ご健闘頂いた全ての皆様方のご尽力に敬意を表しますとともに、今後の更なるご発展を祈念しております。
「SSCVアシスト for Manager」は、SSCV- Safetyのフィードバック機能の強化を目的としたChatGPT APIによるフィードバック自動生成アプリケーションです。
近年、配送需要の拡大によりドライバーの長時間労働が増えており、ドライバーの過労による重大事故が問題視されています。ロジスティードが提供するSSCV-Safetyは、ドライバーの運行データを収集して可視化する仕組みを提供しており、ドライバーの体調管理、およびヒヤリハットイベントの動画確認を通して、短時間でのフィードバックが可能です。
しかし、管理者にとって日々の効果的なフィードバックを考えることは手間であり、心理的に負担がかかります。一方、ドライバーにとっては指摘のマンネリ化による安全運転の意識低下を招く懸念があります。
本提案では、SSCV- Safetyから取得したデータと連動し、コメントの長さ(短め、ふつう、長め)、タイプ(助言、注意、警告)、語調(優しめ、ふつう、厳しめ)を指定することで、ChatGPT APIが自動でフィードバックコメントの原案を生成します。これにより、管理者は気配りのあるフィードバックを短時間で作成でき、ドライバーにとっては多様なフィードバックを通じて交通安全の意識を高く保てることが期待できます。
本アプリケーションは、ChatGPTが得意とする「ニュアンスを考慮した文章生成能力」を活かしてAIが人間を支援する事例であり、SSCV-Safetyのデータを利用することでビジネス上の競合優位性を担保することができます。
物流はすべての人にとってなくてはならないインフラです。
そのため、物流に直接かかわらない人を含めて助け合うことが物流をスムーズに行う要素の一つと考え、道路を利用するすべての人たちが使えるアプリを作りました。
機能は、提供されているヒヤリハットデータを運転者にわかりやすく見える化して安全運転をサポートすることを目標としました。
ポイントは以下の点としました。
データを分析していると、ヒヤリハットデータと警察庁事故統計で共通にイベントが発生している地域は約6.6%しかなく危険度はトラック情報のみでは不足していると考え警察庁の情報も含めて危険度を5段階で表示するようにしました。
運転中に使用してみると通行量が多いところは危険度が高く表示されるので想定通りの動作はしているように思いました。
提供された実際の測定データは人の経験が数値化されていると感じたので、より多角的(天気など)に分析し組込めればより良いものになると思いました。
「ぶじしるべ」は、ユーザーが選択した地域を東西南北それぞれ240分割した約1km四方の区画を、区画ごとにユーザーが選択した期間のヒヤリハット発生事象数と車両の立ち入り記録延べ台数を掛けた積をもとに青や赤で配色して地図上に表示することで、安全対策を取るべき場所を効率よく探せるWebアプリです。
車両の立入台数に対するヒヤリハットの発生確率ではなく、ヒヤリハット発生件数と車両の立入台数の積に着目し、車両の立入台数が少ないのに極端にヒヤリハットの発生確率が高い区画よりも、ヒヤリハットの発生件数と車両の立入台数が多い区画を地図上で目立たせることで、より多くの車両が新規の安全対策の恩恵を受けられる区画を探せるようにしました。
また、ユーザーが分析したいヒヤリハット事象の種類や、車種に絞り込んで地図上に表示させることもできます。
地図上の各区画については、車種ごとのヒヤリハット発生事象数と立ち入り記録延べ台数の関係や、日別/曜日別/時間別のヒヤリハット発生状況、日別/曜日別の車両の立ち入り状況をグラフで確認できるので、ヒヤリハットが発生しやすい種類や車種などその区画の特徴をつかむことができます。
物流業界に限らず、繁忙状態が続くと事故や災害のリスクが高まります。しかし、その是正活動に現場の管理・監督者が割ける時間は限られています。そこで、作業負荷の高い事業所を短時間で把握する方法を考えることにしました。もし、高負荷状態が続いている事業所を短時間で見つけることが出来れば、迅速かつ適切なリソース投入や業務量の調整が可能となり、結果的に快適な職場環境が実現され、ひいては従業員の安全や健康を守ることにつながるためです。
今回の取り組みでは、疲労に係る情報を集約・加工・分析し、TreeMAPやバブルチャートを用いて可視化しました。まず、TreeMAPでは季節性や事業所毎の傾向を把握することが出来ました。さらに、各事業所に座標情報を付加し、バブルチャート上で表現することで、より感覚的に分析結果を把握できる様に工夫しました。その結果、季節や事業所毎に疲労度合いをひと目で把握でき、問題のありそうな事業所を特定することが出来ました。
このWebアプリケーションは、ヒヤリハット危険度のリアルタイム予測を行い、利用ドライバーへのサポートを目的とします。
私たちが提案したアプリケーションの全体像は、「運行前・運行中のバイタルデータやトラックの加速度データ、天気や時間帯、警視庁事故データ等の様々な情報を用いて、運行中のヒヤリハット危険度をリアルタイムに予測し、危険度が高まった際に利用ドライバーに通知を行う」といったものです。本チャレンジでのSSCVによって蓄積されたデータを基に調査を行った結果、SSCVによる「運行前のヒヤリハット発生のリスク評価」をリアルタイムに拡張するような提案となりました。
今回は本提案のうち、主にバイタルデータを用いた準リアルタイムの予測を実装し、Webアプリケーションとして試作・公開しました。
これにより、ドライバーがヒヤリハットや交通事故等の危険体験の減少につながることを願っております。
大和ハウス工業 スマートロジスティクス オープンデータチャレンジ事務局
(YRPユビキタス・ネットワーキング研究所内)
E-mail: support@daiwa-open-challenge.jp